物量という作業

弊社では設計をする際、「物量」という作業をはじめにいたします。医療施設、オフィス、学校などの戸建住宅以外の用途でも欠かせない大切なプロセス。現在どのような家具や物に囲まれて生活をしていらっしゃるのか、現在のお住まいを訪問し、クローゼット、タンス、キャビネットを全て開けて、大小さまざまなモノをひたすら測り、今後の設計の参考とさせていただきます。新築なのにお施主様の「モノの量」を建築家が把握していなかったがためにモノで溢れかえってしまった、家具が入らなかった・・・などの問題があってはなりません。「見せる収納」と言うなんとなくときめくキーワードでキッチンカウンターを一枚のステンレス板とし収納を設けなかったり、寝室の片隅にハンガーラックを一本通すミニマム設計をよく見かけますが、所持品全てがお洒落洗練グッズでない限り、そういう意味でのミニマム設計は最終的にはごちゃっとしたイメージで終わってしまうのでは・・・と弊社は考えます。よって、予算が許す限り、現在お持ちのモノはなんらかしらの壁、扉、カーテンの後ろに収まる設計とし、新築に持っていく家具はしっかりと収まる設計にすることを心がけているのです。

 

物量のメモです。これが何ページも続きます。

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先日の物量ではお施主様が打ち合わせではあまり語らなかった生活への様々な「秘めた小さな思い」を感じ取ることができました。例えばですが、下の写真の(ドヤ顔)助っ人君が手にしているのは低温調理器。通常の家ではあまり見られない調理器具なので奥様に伺ったところ、旦那様がこの器具を購入し、美味しいお肉料理を作ってくれるということでした。他にも旦那様がご購入なさった特殊調理器具が出てきたため、これから設計するキッチンは奥様のみならず、旦那様にも十分意識を向けなくてはならないと気がつくのです。こういう些細な発見が積み重なることで、より豊かな設計になると考えます。

 

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どんなにミニマムに暮らしていらっしゃる方でも部屋の片っ端からモノと向き合うと、捨てても生活に支障がないものが多くあることに気がつきます。私自身はモノが少ない方だと自負していますが近藤麻理恵さん(通称コンマリさん)の本を読み、洋服の整理をしてみたら半分がゴミ箱行きになった経験の持ち主。よって、弊社ではどんなお施主様であっても可能な限り断捨離をしていただくよう、お願いしております。モノを捨てるのには勇気がいりますが、2年ほど使ったことのないモノ、袖を通したことのない服、読んでいない本、幼い頃の子供の芸術作品の数々、きっと使うだろうと思って残している箱類、きっと役立つだろうと思って残している書類や本。これらは恐らく5年後、10年後もクローゼットの奥底で眠ったままになると思われます。建築家としてはモノを収納する面積よりも、実際に日々の生活を豊かにする面積をより多く確保したいのです。「物量」というプロセスは実際にモノを測るという物理的な作業ではありますが、お施主様との会話を通じて、このような建築家の思いが少しでも伝わる時間でもあってほしいとも願うばかりです。